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World Youth Choir 2000 in Spain
世界青少年合唱団2000に参加して
 〜スペイン〜



 世界青少年合唱団2000がスペインで開催されました(7月16日〜8月10日)。今回日本から初めて参加した春山 連さんと佐伯明美さん、そして昨年度も参加している川村章仁さん、田中樹里さん、辻政嗣さんからの報告です。

「言葉の壁を越え、音楽は人と人をつなぐ」 春山 連 

 今回初めてWYCに参加して、本当に多くのかけがえのない素晴らしい経験をすることができました。特に音楽的な面では、まさにカルチャーショックの連続でした。
 何よりも驚いたのがWYCの作り出す「音」、特にピッチについてです。WYCの作る音は、とても豊かで伸びのある『澄んだ音』でした。個々の歌い手が、正しい姿勢で豊かな息に支えられた声を出せるので、音に豊かな響きがあり、しかも正確なピッチを作り出せるのです。声(VOICE)というよりむしろ響き(TONE)で歌う、という感覚です。響きの豊かさのおかげで、音楽的に表現力のある豊かな音色を作ることができます。しかも建物が石造りのため、響きをよく聴き、生かすことができます。これはとても基本的なことなのですが、改めてその重要性を実感しました。特にピッチと響きの感覚は、日本では体験するのはとても難しいものだと思います。
 さらに驚いたことは、メンバー一人ひとりが積極的に音楽を表現していて、それがなおかつひとつの合唱の音として(自然に)そろう、ということです。個々の歌い手が自発的に音楽を作り出し、その互いの歌・音を通じてお互いが影響し合い高め合っていく……これこそが合唱の持つ最大の魅力だと私は思いますが、それを約100人のメンバーでできたときの喜びは、筆舌に尽くしがたいものがあります。まさに夢のような体験でした。特にコンサート最終日の一体感は忘れられません。
 このような合唱を作るには、歌い手の自発性、音楽への積極的な姿勢が不可欠です。今回の指揮者、エルダイ氏(Peter Erdei)が繰り返しメンバーに求めたことは、「自分の出す音に責任を持つ」こと、「出したい音のイメージを持って歌い出す」こと、そして「(我々は『一つの』合唱団なのだから)、決して歌いすぎない」こと、でした。テクニックがあっても表現したいもの、音楽への共感がなければ人の心を打つ音楽は作れません。当たり前のことなのですが、改めてそれを感じました。また、声楽における言葉、テクストの重要性も改めて感じました。

 世界各国から参加したメンバーは皆とても人間的に魅力のある人たちであり、何より音楽を愛し、音楽を心から楽しんでいました。夕食の席や移動の船の中など、集まれば自然に歌声が広がります。こうした友人たちと一ヶ月間共にすごし、語り、合唱を創ることができたことは私にとって一生の財産になると思います。言葉の壁を超えて、音楽は人と人をつないでくれる、これは本当なのですね。
 合唱の素晴らしさをまさに体験できるWYCは年齢の許す限り参加したいプロジェクトです。今回ご支援をいただいたすべての方に御礼申し上げます。ありがとうございました。




「多くの出会いと素晴らしい音楽の世界」 佐伯明美

 私は今、フランスでWYCを振り返っています。全プログラム終了後、友達になったメンバーとしばらく一緒に旅をし、今は一人旅を、これからベルギーのメンバーを訪ねてから日本に帰る予定です。こんな素敵な旅ができるのも、WYCで世界中に友達ができたからです。
 WYCの素晴らしさは、まず多くの出会いにあります。まず日本のメンバーとの出会い、そして二人の指揮者、スタッフ、観客、音楽を心から愛する約40ヶ国からのメンバーとの出会い。一人ひとりが音楽に対する強い熱意と意志を持ち、皆で美しいハーモニー、音楽を作り上げていく喜びは本当に素晴らしいものでした。

 プログラムは、ハンガリーとアメリカからの2人の指揮者によって構成され、4声から16声におよぶア・カペラ、ギタリストとの共演、ゴスペルなど約10ヶ国語のさまざまな曲に取り組みました。美しいハーモニーと高い音楽性を求め、アンサンブル、合唱とは何かを追求する毎日です。仲間同志、またメンバーと指揮者が強い信頼関係を持つことの大切さ、メンバー一人ひとりが指揮者的感覚、客観性を持つこと、作曲者・作詞者の意志を尊重し、音楽・言葉を伝えることの重要性など、数え切れないほど沢山のことを学びました。今まで理解しているつもりだったことも、改めてその重要性を感じました。
 スペイン各地でのコンサートは、ホール、教会、城跡、野外とさまざまで、その場の音響に合わせて演奏し、毎回新鮮な気持ちでコンサートを行うことができました。特に教会での素晴らしい響きと感動は、忘れることができません。
 リハーサル、コンサート、移動とハードなスケジュールの合間には、自国を紹介する楽しいパーティも行われ、私達は全員ゆかたを着てパフォーマンスをしました。2000年の沖縄サミットを考え、沖縄を紹介し、有名な2曲を5重唱で歌いました。日本について深く考えることができ、また各国の伝統、それぞれの特技も知ることができました。私は、ペルー代表の友達とペルーの民謡を歌ったりと、交流も持て忘れ難い楽しい思い出の一つとなりました。

 WYCへの参加は私にとって大きなチャレンジでしたが、何事に対してもまず第一歩が大切で、そこから次へのチャンスが広がっていく喜びを感じました。これからも、一人でも多くの日本のメンバーが参加できることを期待しています。
 また、これだけ多くの国からのメンバーが合唱を通して出会い、約1ヶ月間共に過ごせたのも、各国の多くのスタッフ、さまざまな助け、支えがあってこそです。この経験を大切に、これからもいろいろなことにチャレンジし、学んでいきたいと思います。ありがとうございました。


 私にとって 三度目の夏となる今年は、スペインでの開催ということで、普段、大学でヨーロッパの音楽を勉強している私にとっては、昨年のスロヴェニアに引き続き、また、ヨーロッパの地に行ける喜びと、そこで世界中の仲間と一緒に歌える喜びで、行く前から、とても大きな期待と興奮で一杯でした。そして、今年の夏もWYCは、少しも、私たち若い音楽家たちの期待を裏切ることなく、素晴らしい経験と感動を提供してくれました。今は今回参加するのにあたって、私達に協力してくださったみなさんに本当に心から感謝します。
 私たちが、経験してきた事すべてを紹介することは難しいし、それぞれの歌い手たちが感じた事は違うと思いますが、私が本当に言いたい事は一つ、合唱を勉強している人も、オペラを勉強している人も、ピアノや指揮を勉強している人も、とにかく、できるなら、一度参加してみてください。そして、それにチャレンジしてみてください。そこには今まで経験したことのないすべてがあり、それを、言葉だけでは説明ができないという事を、あなたも感じるでしょう。そして私たちも、WYCで経験したすべてを、これからのお互いの人生に、活かしてゆきたいと思っています。 川村章仁 (Bass=98・99・00年参加)


 今年のWYCのリハーサルキャンプはスペインのレバンテ地方アルテアで2週間行われました。レバンテ地方は1年を通して温暖な地中海性気候で、気温が30度以上という暑い日が続きました。今年のキャンプは誰が名付けたのか<ウォーキングWYC!>ステイ先からリハーサルルームまで15分、食事をとる場所まで20分と、毎日ライムやオレンジ畑を見ながらよく歩きました。日差しが強いためサングラスと帽子は必需品で、夕方には道の向こうから散歩中の数十頭の山羊がやって来たりと、なんとものどかな所でした。食後はプールで泳ぎ、スコアや詩を勉強したり、世界中から集まった仲間達とお互いの国のことばや文化、音楽について語り合い、共に歌い、踊りました。
 2週間のリハーサルはあっという間に終了し、最初のコンサートはアルテアのコンサートホールでした。スペインではコンサートの開演が22時もしくは22時半でふつうだそうで翌日の1時に終了することもしばしばでしたが、年配の方から小さい子供さんまで一緒に楽しんで下さったようです。ツアーはヴァレンシアから船でマヨルカ島、メノルカ島を廻り、スペイン第2の都市カタルーニャ地方のバルセロナへ向かいました。3度の船旅もまた思い出深く、地中海の青さは忘れられません。
 7月17日アルテアから始まったWYC2000は、8月10日とうとうファイナルコンサートを迎えました。記念すべき最後の地はバルセロナからタラゴナへ続くコスタ・ドラダ(黄金海岸)の中間点シッチェスです。この街は芸術家とゲイが多く集まるヨーロッパ屈指の高級ビーチだそうで、そのビーチの端に突き出た小さな教会が会場となりました。シッチェスに着いた時はもう陽が落ち始めていて、リハーサルで舞台に立った時正面に大きなキリストのステンドグラスが浮かびあがっていたのが印象的でした。その夜は不思議なほど、静かな夜でした。地中海は暗くしかし満月の光を受けた場所だけが明るく神秘的にきらめいていました。「これからコンサートが始まる」といった興奮や熱気というよりも、教会という場所がらだろうか、一人ひとりが精神を集中させてコンサートの開始を待っているという印象でした。これまでのコンサートとは明らかに違う始まりだと、私は感じていました。

 コンサートは毎回必ず「Libera Me」で始まりました。私はこのI.Lindholm作曲の「Libera Me」とG.Orban作曲の「Stabat Mater」の美しさが最も印象に残っています。なぜなら毎回新しい発見をさせてくれたからです。アンサンブのルの楽しさはもちろん作品の解釈や表現法、また支え、支えられながら1つの音楽を創り出す喜び等。そして教会で歌うことのすばらしさです。今回私はスペイン各地の教会で歌う機会をいただいて、やはり合唱は教会で生まれた音楽なのだと、その環境を実際に肌で感じることが出来ました。
 ファイナルコンサートは本当にBESTコンサートとなりました。あれほど音楽とは静寂から生まれ出でるという事が尊く思え、深く感動したのは初めてのことでした。コンサートのあと、みんなで涙を流し喜び抱き合ったことも忘れられません。このような素晴らしい経験をさせてくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいです。日本の合唱を愛する多くの方々がこのWYCに参加されることを願っています。 田中樹里
(Alto=99・00年参加)


辻 政嗣(Tenor=96-00年参加)×江川善裕(JCA国際委員会事務局)

 ――辻さんは96年からの参加で、今年で5年目ですね。今年のWYCの中で最も印象に残った瞬間は何でしたか?

 初めて参加した当時は、外の国の仲間たちの体格やしっかりとした発声、日本語にはない言葉からくる響きに驚きました。その中で共に歌うということが難しく、悩んでばかりいました。しかし、回を重ねるごとに、みんなの声と自分の声が"ハモる"瞬間が増えてきました。今回はその"ハモる"一瞬一瞬を心から楽しんで歌うことができました。

 ――今年のプログラムの中で最も楽しめた曲は?

 今回も素晴らしい2人の指揮者に出会い、どの曲も楽しめました。その中で、なんといっても"ノリノリ"だったのはゴスペルです。WYCでは毎回ゴスペルを歌っています。今回の僕のお勧めの曲は、オルバーンの「Stabat Mater」です。

 ――他の人にWYCの参加を薦めますか?

 もちろん進めます。WYCに参加することで、世界中の人々と出会い、語り合い、ハイレベルな音楽を作り上げることができます。WYCで僕の人生が変わったといっても過言ではありません。

 ――今回の経験から学んだこと、日本の合唱人に伝えたいことはありますか?

 毎年感じることですが、団員全員が「少しでもいいものを作ろう。楽しもう。何かを得よう」など、何に対しても積極的です。演奏会の時は特に、その気持ちが"歌"となって客席まで届き、会場全体が音楽を楽しんでいるという感じになります。曲が終わるたびに、客席から"沸き起こる"拍手には本当に感激します。とにかくエネルギーがすごい!! 今年のWYCの合言葉は「Activity」でした。今の僕たち(特に学生)にとって、一番欠けているものではないかと思います。

 ――来年、また参加したいですか?

 もちろんです!!!


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