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World Youth Choir 2005 in Israel
世界青少年合唱団2005
2005年7月4日〜7月24日



イスラエルの中心で平和を叫ぶ

對馬 香(青森県)

 イスラエルでの3週間を一言で現すならば私はこう言うだろう。"まるで夢のようだった"と。しかしそれは夢ではなく、現実──それも私達が今、目を見開いて直面しなければならない世界であった。美しい国、優しい人々、温かな触れ合い。それと同時に目にする悲惨な歴史、民族と平和に対する強い思い──そして、人々の心から、また街の風景からも決して消えることのない"戦争"の傷跡…。
 3つの宗教が交差するこの地で過ごした3週間は、私にとって生涯消えることのない平和に対する課題を痛感させるものであった。

 イスラエルに着いてまず驚いたことはその美しさだ。国の規定により、すべての建築物に白い石が使用されており、遠くから眺めると統一感がある。また、雨はごくたまにしか降らずいつも晴天でカラッとしているため、青空に白い建物が映えて一層美しく見える。なんとなく『砂漠の国』というイメージがあったイスラエルだが至る所に緑もあり、花などの植物も色彩豊かだった。『こんな美しい国でこれから3週間、あの憧れのWorld Youth Choirの一員として過ごすのかぁ……』期待に胸が膨らんだ。

 今回のセッションには世界各国から70名弱のメンバーが参加し、本当に人種のサラダボールに入った様な感じだった。文化や習慣が全く異なった生活様式の中で暮らしている人々が集まったのだ、面白くないわけがない! 毎晩夜遅くまでホテルのロビーに集まって、カードゲームをして遊んだり語り合ったりした。毎日が新鮮で新しい事の発見ばかりだった。
 メンバーが集まるとよく宗教や民族の話をした。やはり興味深いのはイスラエル人とパレスチナ人との関係で、ある晩私はスウェーデン人の友達、マッツ(Mats)とパレスチナ人の友達、ハニ(Hani)と3人で話す機会に恵まれた。マッツと私がその二国間の関係について尋ねたとき、ハニはこう話してくれた。『確かに今でも一線はある。お互いの政府は和解をしようとはしないし、関係もあまり変わってはいないように思う。だけど人々の間に違いはないんだよ。みんな同じ人間、友達だってたくさんいるしね。人々は確実にこの溝を無くしたいと思ってる。この事実が変わらない限り、二国間の和平に対する希望は消えないよ。』同じ民族しかいない小さな島国、日本で育った私には理解しにくい問題だった。しかし3週間現地での生活を経験した今、上辺だけではない何かが私にもわかる気がする。
 この二国間の人々の関係を実際にわからせてくれた事がある。それはコンサートの第2部の初めに行われる、"参加国紹介"での出来事だ。WYCのコンサートでは毎年、第2部が始まる前に司会者が参加国すべてを読み上げ、その国々からの参加者達がステージの中央で一発芸をする。(最後のコンサートでは私達日本人は相撲とりの真似をしてシコを踏んだ。)その参加国紹介でパレスチナ人を紹介するとき、会場では毎回割れんばかりの拍手が飛び交うのだ。人々が和平を求めている証拠だと強く確信し、とても嬉しくなった。

 音楽面での発展も大きなものだった。世界中から選りすぐられたメンバー達と共に歌うというだけでも天にも昇る心地なのに、経験したこと、学んだことはそれを遥かに上回る素晴らしい出来事であった。
 今まで正式に声楽や楽典を学んだり、合唱団に所属した事のない私にとって、"Choral music"は未知のものであった。そのため自分の発声法や歌唱法には自信があるわけではなかった。『正しい』知識がなかったからである。今回のセッションにはABBAのメドレーが曲目として組み込まれてあった。ABBAの練習初日、この曲目を演奏するためにパート分けをし、席替えをする事になった。全員で"Mamma Mia"を歌ったその時、私の隣で歌っていたスロベニア人の友達、マテヤ(Mateja)が驚いた表情でこう言って来た。『香、あなたがソロをやるべきだわ。この曲はあなたのための曲よ!』 …私は耳を疑った。『(私が?どうして?私なんかより上手い人はたくさんいるのに…)』初めは考えてもいなかったオーディションも、マテヤや他の友人達に背中を押され受けてみることにした。結果、"Mamma Mia"と"Take a chance"、2つのソロを務めることになった。…開いた口が塞がらなかった。
 翌日からソリストの一人としての責任感も感じ始め、練習にも更に身が入るようになった。本番ではステージを心から楽しむことができ、新しい目線で"Show-case"というものを考えられるようにもなった。また、同じ音楽を作り上げる仲間達から自分の声や歌い方を褒めてもらうのもとても嬉しかった。それは、年齢も若く英語力も劣る私にとって、やっとみんなと同じ視点に立てたと感じられる瞬間だったのだ。

 今回この文章を執筆するに当たってとても辛かったことがある。それは字数制限が2000文字程度だという事だ。序文では猛烈に張り切っていたものの、結局書きたかったことの20分の1も書けなかったというのが現実である。本当に人生とは世知辛いものだ。いや、それだけこの3週間が実り多きものだったとも言えよう。それだけWYCが素晴らしいものだったと言えよう。夢にまで見たWYCの一員として、イスラエルの誇り高き大地で素晴らしい仲間達と過ごした3週間。
 それはこれからの私の人生の基盤となるだけではなく、世界平和へ繋がる小さな希望の光を、一地球民の心に宿したのであった。


Conductors: Aharon Harlap (Canada-Israel) and Fred Sjoberg (Sweden)

Programme:
First part

Chichester Psalms / Leonard Bernstein

Second part
Dance, Clarion Air / M Tippet
Lobet den Herrn / Sven-David Sandstrom
Lux Aurumque / Eric Whittacre
Syvati / John Taverner
Ave Maris Stella / Edvard Grieg
Auringon Noustessa / Toivo Kuula
Joshua fit the battle / arr. Moses Hogan
Ride on, King Jesus / arr. Moses Hogan
Thou who art over us / Eskil Hemberg
Dror Yikra / Yehezkiel Braun
Acapella in Acapulco / The Real Group
Abba-medley / R. Jansson
Ave Maria / David McIntyre
Ave Maria / Morten Lauridsen
Wind in the west / Tzvi Avni
Mizmor le David / Yehezkiel Braun
Audi, Filia / G Bonato
Shiru l'Adonai / Aharon Harlap


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