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WORLD YOUTH CHOIR’99 in Slovenia
世界青少年合唱団'99に参加して

〜スロベニア〜

 今年のWorld Youth Choir(WYC)は、7月19日から8月17日まで、スロベニアを中心に、クロアチア、オーストリア、ドイツで行われました。指揮者はドイツのフリーダー・ベルニウスとスウェーデンのゲリー・グラーデン。日本からは6人のメンバーが参加し、今回のWYCについて次のように報告してくれました。

「World Youth Choirのしくみ」 田中 樹里(Alto=99年初参加)

 WYCは新規募集と前回からの招待メンバーで構成され、今年は世界32ヶ国・地域から、17歳〜26歳の若い歌手100人が集まりました。主催地であるリュブリャナ(スロベニア)で2週間の集中リハーサル後、イタリア、クロアチア、スロヴェニア、オーストリア、ドイツの各地を演奏旅行しました。演奏場所は、スタジアム、教会、コンサートホール等でしたが、特に鍾乳洞で行なったコンサートは神秘的な体験でした。

 WYCのメンバーになるためには、世界合唱連合(IFCM)または各国の青少年音楽連合(JM)や合唱機関が行なうオーディションに合格し、推薦を受けなければなりません。日本では全日本合唱連盟によってオーディションが行なわれています。そして各国でのオーディション・テープと推薦状をもとに合唱専門家で構成する世界選考委員会によって最終決定されます。

 今年、はじめてWYCに参加してみて驚いたことは、すべてのメンバーが音楽を専門的に学んでいるわけではないということです。もちろん声楽や合唱指揮を学ぶ人はたくさんいますが、同じくらい他の学問(医・薬・数・工・法・ビジネス・ドラマ等)を学ぶ人がたくさんいます。職業も歌手、プロ合唱団員、教員、ビジネスマン、ツアーコンダクター等さまざまでした。全員に共通するのは「合唱を愛していること」それだけです。ぜひ、日本の合唱を愛する多くの方が、この素晴らしい体験をされることを願っています。

「WYCの練習について感じたこと」 日下 智裕 (Bass=99年初参加)

 まず、私がはじめて参加してみて、その練習中に最も驚かされたのは、歌い手の声が非常に透き通ったものであったということです。低声部、高声部にかかわらず、すべての声が「作られた声」や「おしつけられた声」ではなく、「自然と正直に体から発せられる声」であったのです。そのくせピッチがとても高いために、日本の合唱では、まったくといっていいほど聴くことのできない純粋な響きを私は感じ取ることができました。もちろん、指揮者自身もピッチには最も気を配っていて、いかなるピッチの乱れも見逃すことはありませんでした。私は、このようなWYCの声を日本の合唱界でも、もっと取り入れていくべきだと思います。現在の日本の合唱界は、声そのものよりも曲における表現がいかに豊かであるかということの方が重要視され、コーラスの心臓であるハーモニーということについては、あまり意識されていないように思われます。その日本の表現力の豊かさに、WYCのような純粋なハーモニーが加われば、日本の合唱は、さらに発展していくのではないかと思いました。

 「WYC'99に参加して」 川村 章仁 (Bass=98・99年参加)

 今年のワールド・ユースのツアーは、まず、スロベニアでリハーサルキャンプをして、その後、イタリア、スロベニア、クロアチア、オーストリア、ドイツで演奏会を開くという大変忙しいスケジュールでした。コンサートは各地の教会やコンサートホールで行なわれ、連日、スタンディングオベーションとなり、本当に歌を歌うことの喜びや感動を味わうことができました。これらコンサートの中で特に印象に残ったのは、スロベニア・ポストイナの広大な鍾乳洞の中でのコンサートで、夏というのにもかかわらず10℃以下という中で、私たちは歌いました。お客の方々もさぞや寒かっただろうと思いますが、最後までじっくりと演奏を聴いてくださる姿を見て、本当に感謝するとともに、ヨーロッパの人々の合唱、音楽に対する関心の深さ、興味の深さを目のあたりにして、私は音楽を表現するものの一人として、とても幸せに感じました。大学3年、4年の夏をそれぞれ一ヶ月ずつ世界中の仲間と過ごしたということは、私にとって、普段日本にいるだけでは絶対に体験することがでいないことであり、それらはこれから私が音楽を学んでいく上で、貴重な経験だと思います。これからも「音楽」というものを真剣に愛して、たくさんの人々が喜ぶことができる音楽をつくりだせるよう、がんばりたいと思います。今回、援助してくださったみなさま、本当にありがとうございました。

「練習について」 石原 祐介 (Bass=97・98・99年参加)

 ウォーミング・アップは伝統的に団員の有志が行ないます。コンサート前も同じです。ほとんどの人たちが、日本でよくやるようなピアノをバンバン弾くような発声練習をせず、音叉を使って、自分の声のみで行なっていました。また、そんなに大きい声で話すこともしないので、必然的に周りの音が聞こえるように神経を使わなければならず、いいアンサンブルを作る基本を最初から行なうことができ、非常に実践的で勉強になりました。日本との大きな違いは、レベルの違いにあるにしろ、主として、しっかりとした強い声を作ろうとするのに対し、ヨーロッパの発声は、響きの高い声を作ることを優先しているように思います。特にソプラノは、私の印象ですが日本人の声よりも1オクターブ高い倍音の響きを持っており、このメンバーの中に日本人が入るのはかなり難しいのではと思いました。

 練習時間は、基本的に午前、午後、夜の3回、計8時間の練習ですが、ある程度仕上がってくると午前、午後の2回に分けて行なうようになりました。ベルニウス氏は、これぞドイツ人というような厳格な音楽作りをする人でしたが、彼はヨーロッパでは18世紀から20世紀のクラシックな音楽への評価が非常に高く、なぜ日本ではこの人の名前が有名でないのだろうかと不思議に思ってしまう人でした。彼は自分の要求するものを、完璧に指揮で表現できるプロフェッショナルな人で、特に、R.シュトラウスの"Der Abend"が私は好きでした。音楽の豊かさ、テンポの微妙なゆらぎなど、日本では体験したことのない感動でした。もう一人の指揮者、グラーデン氏はスウェーデンで活躍しているアメリカ人です。彼はエリック・エリクソン氏のもとで勉強し、現在、聖ヤコブ教会の室内合唱団を指揮しています。また、彼はテノールの歌い手として、エリクソン氏が指揮していた室内合唱団で歌っていた経験を持っています。彼はとても陽気な人で、皆を盛り上げて、のせていく練習をしてくれました。また、室内合唱団を指揮しているだけあって、純正律にこだわる練習をしてくれました。私が好きだったのは黒人霊歌の"I'm gonna sing till the spirit moves in my heart"でした。これはグラーデン自身が指揮もし、ソロも歌うという曲だったのですが、彼のソロが本当にとても素晴らしく、体全体で音楽を楽しむことができました。二人とも共通しているのは、さすがプロフェッショナルだけあって、自分自身が求めている音楽を明確に指揮で表現してくれたことでした。また、合唱団員もさすが世界レベルで、非常にカンが良く、指揮者の求めている音楽を察知し、さらに自分の持っている音楽を上乗せして歌っていました。わずか2週間あまりで曲を仕上げていくには、このような歌い手の質も非常に重要だと思います。これからWYCにチャレンジしようとする人たちには、曲によって声色を変える技術、非常に響きの高い声(ピッチの高い声)、柔軟な思考、音楽を体全体で感じ取る感受性が必要になっていくと思います。とても楽しかったですよ!

「指揮者・曲目について」 辻 政嗣 (Tenor=96・97・98・99年参加)

 今年のWYCは、フリーダー・ベルニウス、ゲリー・グラーデン氏の指導・指揮の下で演奏会が開かれました。

 ベルニウス氏はドイツ人の指揮者で、現在シュツットガルトを中心にヨーロッパまた世界各地で活躍されています。今回の演奏会ではシュニトケとシュトラウスを指揮されました。両曲とも16声という大編成の大曲で、特にシュニトケはロシア語ということで、練習の時から皆苦労していました。しかし、彼の大変感情豊かな指揮で、彼の求める音楽が団員一人一人にひしひしと伝わり、練習を重ねるごとに厚みのあるハーモニーへと変わっていき、本番への意欲がわいてきました。

 ゲリー・グラーデン氏はアメリカ出身で、現在スウェーデンのヤコブス教会合唱団で指揮をされており、今回初めてWYCを指揮されました。彼が指揮したのは、現代のスロベニアの作曲家ダミアン・モチュニクやヒルボルク、ガッルスなど7曲と黒人霊歌の3曲で、スロベニアのモチュニクは練習に参加して、直接彼の音楽を肌で感じることができました。黒人霊歌は、毎年WYCのレパートリーになっていて、ゲリーはリズム感あふれる指揮で、私たちもその勢いにのって歌うことができました。

 二人の指揮者が練習中、口癖のように言っていたのは「言葉を大切にしなさい」ということでした。言葉をはっきり客席に伝えるということは音楽を表現する上で一番重要なことだと実感しました。

「WYCに参加して必要に感じたことは!?」 渡部 咲子 (Soprano=96・97・98・99年参加)

 WYCに参加して、いつも感じることは、音楽に対する積極性です。睡眠時間、アルコールの度合いや体力は、皆それぞれ違います。だから歌を歌う人間は自分のことを知らなければならないし、それぞれの自己管理の仕方があると思います。いつも最高のコンディションを心がけなければならないので、ある意味では自分に厳しくなくてはいけません。例えば、体調が悪くなったとします。それは、何か原因があるはずです。まずは、そうならないよう心がけなければなりませんが、歌い手にとっては、はじめからそのようなことを想定して対処法を考えておくべきだと思います。いつも気分を明るくするとか、病気にならないように薬を用意するとか。なぜなら、他のメンバーに迷惑をかけるからです。暗そうな顔をしていると、メンバーからいろいろと心配されたり、病気の場合はうつしてしまう可能性があります。特に海外では、日本のように薬を手に入れたい時に簡単には手に入らないものです。自分ができる精一杯のことをすることが大切だと思います。私たちは、まず歌いに来ているわけですから、音楽を通して色々な国の人たちと交流を深めていかなければなりません。私の経験上、リハーサルの時に隣に座ってくれた人と、泊まりが同じ部屋になった人とは、音楽を通して良い友達になれます。音楽の話からどんどん話しが膨らみ、私生活の話に至るまでの仲になります。たとえ英語が話せなかったとしても、心で会話はできるのです。人間性は、言葉を越えて、音楽の表現(歌手は歌っている時)や普段の何気ない態度に表れるのだと思います。私の英語はつたないですが、心を通して理解してくれます。だから、なにも恐れることなく、チャレンジすることが大切だと感じます。


Program/プログラム

First Part

Conductor: Frieder Bernius

Alfred Schnittke (1934-1998): Concerto for Choir (1984-85)
Richard Strauss (1864-1949): Der Abend, op.34 (1897)

Second Part

Conductor: Gary Graden

Iacobus Handl-Gallus (1550-1591): Pater noster OM I/69
Damijan Mocnik (1967- ): Verbum supernum prodiens (1996)
Christus est natus (1997)
Improvisation on Pa se slis', a Slovenian Melody
Anders Hillborg (1954- ): muocaaeyiywcoum* (1983)  *)アルファベットで代用
Jan Sandstrom (1954- ): Gloria (1994)
Jaako Mantyjarvi (1963- ): Pseudo-Yoik (1994)
Hal Johnson: Ain't Got Time to Die
Arr. Moses Hogan: The Battle of Jericho


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