■■遠い日

宮澤賢治作曲「星めぐりのうた」について、興味深いお話をうかがいました。

"宮澤賢治と音楽"という佐藤泰平先生のおはなしの中で、です。

お話のはじまりはマーロー著「家なき子」。読んだこと、ありますか?
"ハリポタ"シリーズで育つ最近の小学生も読むのでしょうか。
どんな本だったか覚えていますか。実はこの原本に楽譜添えられていることをご存知ですか。

先生によれば、日本では120以上の訳本があるものの、楽譜は省略されており、ある日神田の古書店で原書に出会って初めて、この本にどんな曲が付けられていたか知ったということでした。 主人公レミと盲目の少女が再会する場面でも歌われるメロディー、このおはなしのテーマ曲ともいえるナポリ民謡"Fenesta vascia"が、「星めぐりのうた」を想わせる、というのです。

明治38年(1905)、賢治の子供時代。小学生の賢治は担任の先生が読みきかせてくれた「家なき子」(「未だ見ぬ親」)に夢中になったといいます。その後、彼はどこかでこの原書を手にし、曲に出会っていたのではないか。

さらに「ナポリ民謡」と「星めぐり」、二つを結びつける出来事がもうひとつ。

この民謡はFranz Listがあるピアノ曲に採用しているのですが、この曲が収められたレコードを賢治がレコード交換会に出品した記録が残されており、おそらく彼は、メロディーを聴き、普段よく口ずさんでいたのではないか・・・

「家なき子」、「ナポリ民謡」、賢治、そして「星めぐり」。長い年月の中でさまざまな体験が一本の線につながって、宮澤賢治という芸術家の魅力をあらためて知るお話でした。

幼い頃に読む、あるいは読んでもらう本。心の奥底に刻まれる、遠い日の1ページの記憶は、ある晩静かに降った雪が白い光の朝をもたらすように、やがて、ひとつの言葉、ひとつの調べとなって輝きを放つのでしょうか。

そうした1冊との出会いを大事にしたいものです。


みちしるべ

「家なき子」と宮沢賢治 : ナポリ民謡「Fenesta vascia」と賢治の星めぐりの歌(立教女学院短期大学紀要27号, 1−39ページ, 1995)

宮沢賢治の音楽 / 佐藤泰平 著 (東京 : 筑摩書房, 1995. 3, ISBN: 480813691)

花巻市ホームページ・賢治のコーナー「下ノ畑ニ居リマス」http://www.city.hanamaki.iwate.jp

賢治の事務所 http://www.bekkoame.ne.jp/~kakurai/

佐藤泰平 "宮沢賢治とレコード(一)" (立教女学院短期大学紀要14号, 49−115p, 1982)

佐藤泰平 "宮沢賢治とレコード(二) (立教女学院短期大学紀要15号, 1−71p, 1983)

音楽図書館協議会(MLAJ)研究セミナー(2003.11.7)
佐藤泰平(東北大学大学院講師)氏講演 「宮澤賢治の音楽」
http://www.mlaj.gr.jp/docments/2003/sato.htm

初出:「ハーモニー127号2004年」2004.1.10発行/copyright(c)2004.Junko
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